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東京地方裁判所 昭和60年(ヨ)2312号

当事者

別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  被申請人は、申請人らに対し、それぞれ別紙債権目録(略)「昭和六〇年九月分賃金不足分」欄記載の各金員並びに昭和六〇年一〇月以降本案事件の第一審判決言渡に至るまで毎月二六日限り同目録「月額賃金(認容額)」欄記載の各金員を仮に支払え。

二  申請人らのその余の各申請を却下する。

三  申請費用は被申請人の負担とする。

理由

一  申請の趣旨

1  申請人らが被申請人に対し、雇用契約上の権利義務を有することを仮に定める。

2  被申請人は、申請人らに対し、それぞれ別紙債権目録「昭和六〇年九月分賃金不足分」欄記載の各金員並びに昭和六〇年一〇月以降本案判決確定に至るまで毎月二六日限り同目録「月額賃金(請求額)」欄記載の各金員を仮に支払え。

3  申請費用は被申請人の負担とする。

二  当裁判所の判断

1  当事者、本件解雇及び賃金

以下(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがない。

(一)  被申請人(以下単に「会社」ともいう)は、昭和一九年七月二七日に設立された電子工業用測定器等の製造販売を業とする会社であり、昭和六〇年八月末現在資本金五億円、従業員数九九名である。会社は創立者二村雪郎とその一族が株式の大半を保有していたが、昭和五七年の経営危機に際し、岩崎通信機株式会社が資本及び経営に参加した。しかし、昭和五八年春再び経営危機に陥り、同社に替って宮越邦正(以下「宮越」という。)の経営する音響機器メーカーのユニセフ株式会社(以下「ユニセフ」という。)が会社の経営権を握るようになった。昭和六〇年六月末現在、会社株式の九九・八八パーセントは宮越とユニセフと宮越一族が所有している。現在の代表取締役瀧本嘉也は、昭和五九年一二月二八日に就任したが、もとユニセフの社員で、宮越の意向で会社に派遣されたものである。

(二)  申請人ら各自の生年月日、会社への入社年月日、昭和六〇年八月当時の所属は別紙申請人一覧表(略)記載のとおりであり、申請人らは会社従業員によって組織される目黒電波測器労働組合(以下「組合」という。)の組合員である。

(三)  会社は、組合に対し、昭和六〇年八月七日減量経営のため陣容をおおむね半減する必要があるので、同月二六日まで希望退職を募集する旨申入れ、同月二七日応募者が三人しかなかったとして申請人ら一〇名を含む一五名の従業員について同年九月一日付をもって就業規則三八条三項「事業縮少によって剰員となったとき」の規定に基づいて指名解雇する旨通告し、被解雇者ら宛に同年八月三〇日付解雇通告書をもって同年九月一日付で解雇する旨の意思表示をし(以下「本件解雇」という。)、右書面は申請人島田には同年九月三日、その余の申請人らには同年八月三一日到達し、会社は以後申請人らを従業員として認めない。

(四)  申請人らは、会社から毎月二〇日締め、同月二六日払いで、それぞれ毎月別紙債権目録「月額賃金(請求額)」欄記載の賃金を得ていた。右月額賃金は、毎月定額で支払われる(1)基本給、(2)皆勤手当、(3)年功手当、(4)役付手当、(5)家族手当、(6)住宅手当、(7)通勤手当の合計額である。右金額のうち、(2)皆勤手当、(7)通勤手当を控除した金額は、同目録「月額賃金(認容額)」欄記載のとおりである。

会社は、申請人らに対し、昭和六〇年九月分賃金のうち同年八月二一日から同月三一日までの分として計算した額を支払ったが、同月分残額(別紙債権目録「昭和六〇年九月分賃金不足分」欄記載の金額)及び同年一〇月分以降の賃金を支払わない。

2  申請人ら主張の本件解雇無効の理由

申請人らは、次の理由で本件解雇は無効であると主張する。

(一)  就業規則三八条三号所定の「剰員」の不存在

会社は、第四〇期(昭和五八年七月一日~昭和五九年六月三〇日)決算において約二億円の経常利益を、第四一期(昭和五九年七月一日~昭和六〇年六月三〇日)決算において会社史上空前の五億円を超える経常利益をあげ、業績は好調である。会社資産は、昭和五八年六月三〇日から昭和六〇年六月三〇日までの二年間で八億六四〇〇万円増加している。その間従業員数は一六二名から一〇四名に五八名三五%減少し、昭和六〇年七月には四名、八月には一二名(希望退職募集に応じた三名を含む。)が退職し、本件解雇後も同年九月三名、一〇月に二名が自然退職しており、他方会社は同年六月、七月にかけて五名、本件解雇後も九月に一名、一〇月に一名を新規採用している。解雇を回避するための努力は一切していない。これらの点からみて、会社が解雇理由として掲げる就業規則所定の「剰員」が存在しないことは明白である。

(二)  労働協約第二一条所定の解雇同意約款違反

会社と組合との間で締結されている労働協約第二一条には「会社は組合員の解雇及びこれに伴う事項は原則として組合の合意を得て行う。」という解雇同意約款があり、さらに人事移動について「今後会社が人事移動を行う場合は組合と事前に協議しその意見の一致を見た上で行う」(昭和三七年一月二七日付協定〇〇三号)、「今後の組織変更、人事異動については該当職場、本人、組合と事前に民主的に協議し、合意のもとに実施すること」(昭和五二年一二月一三日付協定〇八五〇号)との協定があり、ユニセフ参入以前は守られていた。しかるに、会社は昭和六〇年八月七日突然希望退職募集開始を通告し、組合がその必要性について経営資科の提出と説明を求めたのにこれを拒否し、同月二七日夏期一時金団交の席上会社役員らはいきなり本件解雇の通告書を朗読すると直ちに退席した。同月二九日の団交においても解雇の必要性についての具体的説明は殆んどなく、解雇基準の適用についても説明を約しながら、以後組合からの団交申入れを、組合側団交メンバーに被解雇者が入っているという理由で一切拒否し続けている。このように本件解雇は労働協約の解雇同意約款を全く無視して強行されたものであって、無効である。

(三)  不当労働行為

本件解雇は、組合の組織つぶしをねらって組合活動家を選別して解雇対象者とした不当労働行為であり、労働法上の公序良俗に反し、無効である。

(1) 昭和五八年七月宮越は会社代表取締役就任に際し、従業員に対するあいさつで「やるんなら一ケ月でも二ケ月でもストライキをやれ」「会社を再建していくがやめたい奴はすぐやめろ」等組合敵視の発言をし、昭和五九年三月ユニセフ出身の古市副社長は退職しようとしていた従業員に対し「桜の花の散る頃には組合をつぶす。組合を整理するまで別の会社でやらないか」と言って引き留めた。そしてユニセフ参入後、それまでの労使慣行を破り、組合の方針と真っ向から対立する合理化路線が次々と強行された。

(2) 昭和六〇年六月一七日会社は従前午前八時から午後四時半までであった就業時間を午前九時から午後五時半までにする就業時間変更を強行したが、組合の指示に従って同日から数日間従前の退社時間を守った者が七五名の組合員中三〇名前後あり、同年七月二七日大森駅で会社の不誠実を宣伝する組合のビラ配布に参加した組合員は一三名であった。一五名の本件解雇の被解雇者はいずれも右組合活動のどちらかに参加している積極的活動家ばかりであり、会社も解雇基準について「労使関係上、協力を得られない人」と述べて、本件解雇が組合活動家を対象としたことを明らかにしている。

(四)  解雇権濫用

以上のように、本件解雇は、経営上の必要もないのに組合の弱体化、変質を図る目的で、恣意的基準により組合活動家をねらい打ちにし、労働協約を無視して労使間協議もせず一方的に強行されたもので、労使間の信義則に反し、解雇権の濫用にもあたり、無効である。

3  会社の主張

(一)  解雇理由

会社が従前経営危機に陥った原因は、オーディオメーカーを対象とした電波測定器の製造に片寄っていたため、ユーザーの事業計画の変化を直接に受けていたことにあった。ユニセフ参入後、会社は、経営方針として電子機器全般に対応する汎用性の高い商品の開発製造に乗り出して経営基盤の安定を図ろうとしたが、変化への対応を拒否し旧態を固守しようとする組合の反対にあい、会社の新規計画は挫折し、その間、退職者が続出した。四〇期、四一期は従来品が売れたため黒字決算となったが、昭和六〇年三月に至ってオーディオ業界の景気下降と輸出の激減が必至の状勢となり、従来の体制では再び経営の危機に直面することとなった。現に昭和六〇年七月に入って売り上げは著しく減りはじめ、同年七月の売り上げは一億七九〇〇万円で前年同月比四二・二%減、八月は同五七・四%減、九月は同六四・三%減となっており、この大幅な落ち込みは当分続くことが必至である。しかし、昭和五八年の経営危機以降技術者の退職が相次ぎ、開発能力の低下した会社の現陣容では汎用性の高い新商品の開発は不可能である。加えて昭和六〇年一〇月から香港上海銀行からの借入金(六億円)の返済も始まり、資金難も予想された。そこで会社は、開発は関連会社や外部に委託し、自らは「開発メーカー」から「生産管理・販売会社」に事業縮少せざるを得なくなり、本件解雇に踏み切ったのである。会社は、指をくわえて倒産を待つことはできず、本件解雇は会社存続のため不可避の措置であった。

(二)  解雇合意約款について

会社と組合との間に申請人ら主張の協約・協定があること、本件解雇について組合と協議をせず、合意を得ていないことは認める。会社が、本件解雇の一方的通告に踏み切ったのは、前述のように、会社再建のためにはオーディオメーカー向け商品から汎用品への経営体制の変革が不可欠であり、そのため、会社の組織変更、人事異動が必要であり、また取引先との関係で就業時間の変更等の合理化も必要であったので、会社は組合との団交で誠意をもって説明したが、協力を得られなかったばかりか、組合は話し合いがもたれている一方で会社を非難攻撃するビラを連日配布し、事実無根の中傷を交えた内容のビラを駅前など社外にまで無差別配付して会社の信用を著しく傷付けるなどしており、指名解雇について協議できるような状態ではなかったためである。希望退職募集について、会社が財務諸表を組合に提示しなかったのも、悪宣伝に利用されるのをおそれたためである。協約にも「原則として合意を得て行う」とあり、本件の場合は、例外にあたる。

(三)  指名解雇者の人選

指名解雇にあたっては(1)年令(2)新技術への対応能力(3)協調性(4)日常の勤務態度を総合的に評価判定した。

4  本件解雇の効力についての判断

(一)  使用者の解雇権の行使が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができない場合は、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。本件解雇は、「事業縮少によって剰員となったとき」との就業規則の規定によるものであって使用者側の事情によるいわゆる整理解雇であり、このような場合に社会通念上相当として是認すべき合理的な理由の存否を判断するためには、(1)人員整理をしなければならない経営上の必要性、(2)解雇を回避するための努力、(3)被解雇者選定の合理性、(4)組合との協議等の点を総合的に考慮し、解雇により被解雇者及びその家族が受ける経済的精神的苦難並びにこれが社会全体に与える悪影響との対比においてこれを判断すべきである。

(二)  疎明及び審尋の結果によると、本件解雇の経緯について一応次のとおり認められる。

(1) 本件解雇直前の会社の第四一期(昭和五九年七月一日~昭和六〇年六月三〇日)決算において、経常利益は五億〇二八九万二〇三二円であったが、これは会社史上空前の好業績であった。第四〇期決算の経常利益も二億円を越え、二年続きの好業績により会社資産も大幅に増加した。

(2) 会社は、昭和六〇年八月七日の希望退職募集、同月末の本件解雇通告において、その必要性の理由として、業界景気の冷え込みと輸出減少による売り上げの落ち込み予測及び同年一〇月からの香港上海銀行に対する借入金返済による資金繰りの悪化予測を挙げている。しかし、後者の借入金返済については、会社代表者は昭和六〇年一一月一日の審尋期日において、「返済条件についてなお交渉継続中であるが、現在のところ来年一〇月が第一回目の支払期になっている。」と述べ、これによれば、右借入金返済の予定時期についての会社の説明は事実に反し、さし迫ったものではなかったことが明らかである。前者の売り上げの落ち込み予測については、会社がそのように予測しているという会社作成の疎明資料は提出されているものの、これを客観的に裏付けるに足る疎明はなく、右の借入金返済に関する会社の説明のずさんさに照らしても、にわかに首肯し難い。

(3) 希望退職募集にあたり、会社は、目標人数について「陣容をおおむね半減する」というのみで、具体的な数字は示さず、団交において組合が希望退職募集を必要とする理由について資料の提示と具体的説明を求めたのに、これを拒否している。

(4) 解雇回避努力について、会社は組合に対し、昭和六〇年八月七日希望退職募集を書面で伝えたにとどまり、それ以外に積極的努力をした形跡はない。

(5) 指名解雇者数を一五名とした算出根拠についで、審尋期日における質問に対する会社代表者の応答は、自らその衝に当った者として真相を説明しようとする姿勢に欠け、要領を得ないものであった。

(6) 会社の従業員数は、昭和五七年七月一日から昭和六〇年六月三〇日までの三年間に一〇九名減少して一〇四名となったが、同年七月に四名、希望退職募集中の八月にも一二名の退職者があり、本件解雇時に任意退職による自然減も相当見込める状況であったと考えられ、他方会社は昭和六〇年四月から一〇月までの間に合計一二名の従業員を新規採用している。

(7) 指名解雇された一五名は、昭和六〇年六月会社が就業時間を変更した際、組合の指示により会社の業務命令に従わなかったり、同年七月大森駅付近で会社非難のビラ配りに参加した者であった。

(8) 宮越は、会社代表取締役就任あいさつで従業員らに対し「やるんなら一ケ月でも二ケ月でもストライキをやれ」「会社を再生してゆくが、やめたい奴はすぐやめろ」と述べ、またユニセフから派遣された古市副社長は、昭和五九年三月頃、退職しようとした従業員に「桜の花の散るころには組合をつぶす。闘争資金として七億円をユニセフの宮越社長から預かっている」などと述べた。

(9) 労働協約二一条に申請人ら主張の解雇同意約款があるが、会社は本件解雇を一方的に通告したにとどまり、昭和六〇年八月三〇日以降組合の再三の団交申し入れにも応じていない。

(三)  右(二)に認定した本件解雇の経緯を、(一)に述べた判断基準に照らして考えると、本件解雇は、その必要性、被解雇者選定基準について重大な疑問があり、回避努力を欠き、協約を無視している点で社会通念上相当として是認すべき客観的に合理的な理由を欠き、権利の濫用として無効というべきである。

5  仮処分の必要性について

以上によれば、本件解雇は無効であるから、申請人らは、会社に対し、労働契約上の権利を有しているというべきであり、疎明によれば申請人らは賃金を唯一の収入としていることが一応認められるから、その仮払を受ける必要性もこれを認めることができるが、申請の趣旨第一項の仮処分及び同第二項中昭和六〇年一〇月分以降の賃金について通勤手当及び皆勤手当の仮払、本案第一審判決言渡後の仮払を求める部分については、その必要性を認めるに足る疎明はない。

6  よって本件仮処分申請は、主文第一項の賃金仮払を求める限度で理由があるから、事案の性質上保証を立てさせないでこれを認容し、その余の申請は理由がないから却下し、申請費用の負担について民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 白石悦穂)

当事者目録

申請人 藤井将貴

同 浅見政宏

同 島田豊吉

同 松永忠男

同 大野孝次郎

同 斎藤武夫

同 沢井誠一

同 西部敬雄

同 松田政志

同 井上晴雄

右訴訟代理人弁護士 須藤正樹

同 安田叡

同 鈴木克昌

同 鷲見賢一郎

同 藤井篤

同 浜口武人

同 寺村恒郎

同 石野隆春

同 飯田幸光

同 渡部照子

同 山口英資

同 清野順一

同 後藤富士子

同 青木和子

同 長谷川史美

同 南惟孝

被申請人 目黒電波測器株式会社

右代表者代表取締役 瀧本嘉也

右訴訟代理人弁護士 山本潔

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